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連載記事 午後の散歩道
山田りかのハートフルエッセイ

プロフィール:某酒類メーカーに勤務するかたわら、ママ達の日々の暮らしを見つめる勤労作家。年齢不詳。いくつになっても、竜也の前では乙女です。

No.52

厳選!大人が楽しむ児童文学◎

『午後の散歩道』に、ようこそ!

空気がキーンと冷え切った真冬の散歩道は、道行く人も、梢(こずえ)に止まって通りを見下ろす鳥たちも、真ん丸に着ぶくれている。
こんな季節はぬくぬくと部屋のなかで温まりながら、読書をするのが最高の幸せだ。

ということで、今回のテーマは、大人が楽しむ 児童文学の世界!

猫に読書 photo by ifindkarma

(photo by ifindkarma)
猫だってたまには お話が聞きたいニャ!

私がこうして働きながら物を書くようになったきっかけは、児童文学の学校に通ったこと。大人の小説は難しそうだけど、子どもの話なら私にだって書けるんじゃない?という、極めて甘っちょろい考えのもと始めたことだが、その道はとっても険しいものだった。

その時のことは、このエッセイの初回あたりに綴っているので、興味のある方は是非 再訪していただきたい。
今回皆様にオススメするのは、世の中にあまたある児童文学のなかでも、特に大人が読んで「いいなぁ、面白い!」と思える名作3冊。
昔、その道を真剣に目指したからこそ 自信をもって奨められる素敵な作品たちだ。

1.つめたいよるに ( 江國香織 著/新潮文庫 )

江國香織というと、『東京タワー』や辻仁成との共著『冷静と情熱のあいだ』など、都会の女のお洒落な恋愛小説が有名だが、彼女はもともと児童文学の人。
『草の丞 (くさのじょう) の話』という幽霊と人間が織りなす不思議な作品で、毎日新聞「小さな童話」大賞を受賞したのが作家キャリアの原点だ。

この『草の丞の話』を初めて読んだ時、甘ちゃんでチョロかった私は
(なぁんだ、こういうのだったら、私にも書ける)
と思ったわけなのだが、今読み返してみると、江國さんのもつ独特な、しかも圧倒的な世界観に痺れてしまい、昔々の愚かな自分の頭をペシッとひっ叩きたくなってしまうのである。

東京タワー

最近の東京タワー。イルミネーション、お洒落☆

『つめたいよるに』は、江國香織が 児童文学から大人の文学界へと歩み始めるちょうど境目の頃の短編集。 温かくて可愛らしい、それでいて世界をみつめる鋭い視線が感じられる小さなお話が21編も収録されていて、毎晩 寝る前に ちょっとだけホッコリしたい方には最適の本である。

私が一番好きなのは、冒頭に収められた『デューク』。
愛犬の死を受け止められない女の子と、彼女のもとに現れたカッコいい男の子の一日の物語だ。 このお話を読んだ時、私はティッシュで涙を拭きながら
(くぁ~、てんで敵わねェ~~ッッ!!)
と江國さんの輝く才能の前に全身を投げ打ち、ひれ伏したのだった。

犬の笑顔

こんな可愛い顔で見られたら、もう~(T_T)!

2. 西の魔女が死んだ ( 梨木香歩 著/新潮文庫 )

会社員をしながら児童文学のサークルに入り、仲間と合評会や同人誌発行などの活動に励んでいた頃、私の周囲には何人もの「魔女かぶれ」な人たちがいた。

まだ「ハリーポッター」が世界の児童文学を席巻する前の時代であったが、彼女たちは「指輪物語」や「ネバーエンディングストーリー」を愛読し、自分が書く作品のなかに、何でも出来ちゃう魔女を登場させていた。
作品は それぞれに工夫を凝らし、楽しく読める童話になっていたけれど、私はそれらを読むたびに
(なんで日本に魔女が出なきゃならないんだよ…)と心のなかでツッコミを入れていた。

のちに宮崎駿が映画化して世界中で愛されることになった「魔女の宅急便」を読んだ時も、
(なんで魔女なんだ。日本でやるなら「ろくろっ首の飛脚便」でいいじゃないか)
などと思ったものである。

そんなひねくれ読者の私であるから、この「西の魔女が死んだ」の最初の一文、それは題名そのまま、
「西の魔女が死んだ。」から始まる物語なのだが、この一文で愚かな私は

「またコレだ……」と、小さく舌打ちすらしたのである。

しかし、読み進むにつれて、この物語が 単なる西洋かぶれの魔女好きな話ではないことが判明した。

飛び出す絵本 photo by RyanHickoxPhotography

(photo by RyanHickoxPhotography)
想像の翼を広げて、物語の世界へ!

周囲に馴染めず 学校に行けなくなった主人公のまいが、関西の祖母の家で過ごしたひと月余りの日々を綴った静かなお話である。

「西の魔女」とは、まいの母が、一筋縄では付き合えない自分の母親につけたあだ名。魔女=まいの祖母はイギリスから祖父に嫁ぎ、祖父の死後も関西の山深い土地で暮らす、ミステリアスな老女である。彼女は自分の土地でハーブを育て、野生の木苺を摘んでジャムを作り、キッシュを焼く。日本にいながら母国イギリスで培った生活のスタイルを変えずに暮らす、逞しくてカッコ良い女性だ。

まいは祖母との暮らしを通し、自然の恵みのなかで生きる喜びや、社会の中でも自分の生き方をきちんと維持する心の強さを学んでいくのだが、小さな事件をきっかけに、祖母の家を飛び出し、母親のもとへ帰ってしまう。

それから二年後、母が運転する車に乗り、危篤だという祖母のもとに、まいは駆けつける。
静かで淡々とした物語が、ラストの3ページで鮮やかな森の景色に包まれ、読む者の心を鷲づかみにする。それがこの物語の凄さである。

森の中

「西の魔女が死んだ」のラストは目が覚めるような鮮やかさ。

本当はこの本のラスト3ページは、楡出版から発行された新刊本(もしくは小学館発行の復刻版)で味わっていただきたいのだが、新潮社の文庫本でも、きっちり工夫して作られているので安心して読んでほしい。
ちなみに この本作は2008年に映画化され、そこでは西の魔女の素敵なライフスタイルが丁寧に描かれている。ラストも原作を損なわない感動的なシーンになっているので、是非チェックしてみてほしい。

3.頭のうちどころが悪かった熊の話 ( 安東みきえ 著/新潮文庫)

大人が楽しめる名作児童文学、オススメ最後の1冊は、ちょっと笑えて ちょっと考えさせられる、楽しい動物たちの短編集。

前の2作の著者に比べると、「それは誰?」と思われる方も多いかもしれないが、安東みきえは その作品が、中学校の国語の教科書にも採用されている、知る人ぞ知る、な児童文学作家であり、何を隠そう、私の自慢の友である。

川の熊

え? 誰か呼んだ??

江國香織が『草の丞の話』で毎日新聞「小さな童話」大賞を受賞してから7年後、安東みきえは『冬のひだまり』で同賞の大賞を受賞し、文学界デビューを果たした。しつこいようだが 何を隠そう、私もその賞のなかの選者賞をいただき、授賞式で出会ったのが、安東みきえとの付き合いの始まりだ。

小さな賞をもらったきり、児童文学界には残れなかった私と違い、彼女はそれから才能を開花させ、巧みなストーリー展開とおかしみのある語り口で、今も着実にキャリアを築きあげている。
ただし残念なことに、少子高齢化が進む日本において、児童文学界は先細りの零細業界。
筆一本で生活できる作家など、数えるほどしかいないのが現状だ。

「みきえちゃんにはずっと、売れないけど いい作品、を書いていってほしい」
この先の児童文学界を思い、私がヘンなエールを送ると、彼女は
「イヤよ! アタシは売れっ子になりたいのよ!!」と本気で怒ったものである。

その「売れないけど、すっごくいい作品を書く」みきえちゃんが、にわかに脚光を浴びたのは、デビューから10年以上たった2007年のことである。

人気女優で書評家でもある小泉今日子が「ユーモラスで痛快、スパイシーな大人の寓話集」と取り上げ、ベストセラーの仲間入りをしたのが、この『頭のうちどころが悪かった熊の話』なのである。

物語は「頭のうちどころが悪くて記憶を失った熊」や「キツネを食べちゃってから自己嫌悪に陥るトラ」、「自分の理想を追い続けるナニ様!?なカラス」など、身近な動物たちが繰り広げる7つのこっけいなストーリー。

虎の昼寝 photo by Tambako the Jaguar

(photo by Tambako the Jaguar)
出てくる動物はみんな、人間あるある(笑)

この動物たちの、ものすごーく人間臭くて憎めないキャラクターがそれぞれに魅力的で、あー面白い、と読むうちに、「う~ん、そういうことある、生きてると」とつい考えさせられてしまうのが、作者の腕の光るところなのである。
私の一番のお気に入りは、シッポが「?」の形で生まれた、オタマジャクシーの「ハテ」。
7つのお話を彩るイラストレーター・下和田サチヨさんの挿絵も、文庫本なのにカラーで楽しめるのが嬉しい。

ちなみに、この『熊』は劇化され、今年6月、グリム童話の故郷・ドイツはミュンヘンの劇場で公演されるそうだ。
みきえちゃんの動物寓話を、ドイツの人々はどんなふうに見るのか。できれば原作者と一緒にドイツの劇場で観てみたいものだ。(無理だけど)

以上、大人が楽しめる名作児童文学3選、いかがでしたか?
子どものためだけじゃなく、たまには自分のための一冊を買ってみるのも素敵なこと。

ずっと本棚に置いておいたら、そのうち子ども達がみつけて お母さんと同じ世界で遊ぶ日が来るかもしれない。

イラスト 頭のうちどころが悪かった2人

みきえちゃんのドジと私の忘れん坊は……筆舌に尽くし難い。

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