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連載記事 名画座で待ち合わせ
山田りかのシネマエッセイ

プロフィール:某酒類メーカーに勤務するかたわら、ママ達の日々の暮らしを見つめる勤労作家。年齢不詳。いくつになっても、竜也の前では乙女です。

No.3

青いパパイヤの香り

持たざる者が持つ芳醇な幸福


『青いパパイヤの香り』

ベトナム・フランスの合作映画『青いパパイヤの香り』は、1950年代のサイゴンの商家を舞台にした、静かで潤いに溢れた作品。
 この映画が日本で公開された90年代、ベトナム料理店が大層はやった記憶がある。
 主人公は貧しい村から裕福な商店へ奉公に出された少女ムイ。小さな荷物に身一つでやってきたムイは主人夫婦が亡くした一人娘と似た面差しで、それゆえ女主人から特別な愛情を注がれる。

 ムイは先輩女中のティーに料理や洗濯、掃除の仕方を教えられ、一心に働く。何も持たない簡素な暮らしのなかで、彼女は庭を覆う熱帯の草木やそこに住まう小さな生き物たちを慈しみながら、美しく成長する。

 運命の計らいにより、ムイは幼い頃から恋心を抱いていた美男の作曲家クェンに仕えることとなり、ついには妻の座を射止める。彼がムイに与えたのは高価な宝石ではなく、子供用の作文集だ。ムイはプロポーズの代わりに、クェンから読み書きを習う。ラストシーンでムイが朗読するのは、夏目漱石の『草枕』の一節。置かれた場所でしなやかに生き抜くムイの姿を映すような一節が、心に響く。

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