HOME 連載と特集 連載記事 午後の散歩道 真夏のバカップル
連載記事 午後の散歩道
山田りかのハートフルエッセイ

プロフィール:某酒類メーカーに勤務するかたわら、ママ達の日々の暮らしを見つめる勤労作家。年齢不詳。いくつになっても、竜也の前では乙女です。

No.23

真夏のバカップル

『午後の散歩道』に、ようこそ!

いや〜、毎日毎日 暑い!! エアコンを効かせた部屋にいても、蝉しぐれの音に汗がじんわり滲んでくる。
それでも人々は 炎天下でバーベキューをし、浴衣に着替えて夏祭りや花火大会に出かける。 暑さにうんざりしながらも、夏のお楽しみに心を弾ませるのである。
いいなー、花火。 私だって去年までは、人込みをかき分けて、あちこちの花火を見上たものだが……勉強の年と定めた今年の私に、夏のバカンスはナイ(T_T)

というワケで、今年は1人部屋に残り、何かバカバカしいことを思い出しながら、暑い夏を乗り越えようと思う。
夏のバカバカしい風景といえば、真っ先に思い浮かぶのが、昔さんざん友達から聞かされた、緊張感ゼロのおバカなカップル伝説である。
仲良しカップルは 平和の証し♡

1. 太陽が見てる
Long long a go. 高校生だったMc子には、クリンとした目が可愛い ステディな彼がいた。
クラブの後、部室の前で待ち合わせ、肩を並べて駅までの道を歩くのが、二人のささやかな制服デート。 バスに乗れば10分の道のりを、人通りの少ない路地を選んでゆっくりゆっくり、二人だけの時間を過ごす。

明日から夏休み、という日のこと。 さっきまで部活の話で盛り上がっていたカレが急に口をつぐみ、Mc子の手をぐいっと引っ張り、住宅地の隣りにそびえる木の陰へと連れていく。
(え、もしかして……)
心臓をドキドキさせながら見上げたカレの顔が、Mc子の顔に近づいてくる。
「いいよね?」
真っ白になったMc子の頭のなかでは、いろんな気持ちが渦巻いて、思わず「だめ」とつぶやいた。
「でも、誰もいないよ?」
「だめ。 太陽が見てる」
制服の二人は、夏の太陽に見守られながら、初めてのキスをした。
太陽はなんでも お見通し

2. 歩けないもん
Long long a go. 大学生のC美には、その夏、森のクマみたいに大柄な体育会系の恋人ができた。 春の新歓コンパで出会った恋人は、大酒飲みで強面(コワモテ)だけど、C美にはとっても優しい二つ年上の先輩だ。
学生同士の二人は、駅前の安い食堂でホッケ定食などを食べると、地方出身のカレが住んでるワンルームマンションに直行し、ビデオを見たりゲームをするのがいつものデートパターンである。

「ねぇ、どっか行こうよ、南の島とか」
「無理。だってオレ、金ナイもん」
「やだー。せっかく夏なのに、つまんなーい!」
「金以外なら、何でも言うこと聞くからさ〜」
「じゃあ、チャーハン作ってよ」
するとカレは「しょうがねェなァ」とつぶやきながら、冷蔵庫の残り物でチャーハンを作ってくれた。 居酒屋の厨房でバイトしているカレは、実家暮らしのC美より、ずっと料理が上手なのだ。
「C美、麦茶が飲みたい」
「ヘイヘイ」
テディベアみたいに大きな体を揺らし、カレはC美のためにキッチンへ行き、麦茶を注いで戻ってくる。 夏らしいデートをしてあげられない負い目が、カレにはあるみたいだった。
そんなのいいのに。と思いながらも、C美は自分の言うことを聞いてくれるのが、無性に楽しくなってきた。
このバカップルが〜!

「C美、トイレに行きたくなったよ」
試しに言ってみると、カレは「ヘイヘイ」としゃがみ込み、ベッドに座ったC美に背中を差し出した。
「わーい♪」
カレの大きな背中に背負われると、視界がグンと高くなる。
「重てェなぁ」
カレは狭い部屋を横切り、トイレのドアを開けてC美を便座に座らせてくれた。
「はい、おしまい〜」
C美を下ろすと、カレはドアを閉め、部屋に戻る。「おしまい」と言ったからには、もうおんぶする気がないのだろうか。 C美は用を済ませると、パンティを穿いて便座に座り直し、
「終わったよ〜」と声をかけてみた。
部屋からはテレビの音しか聞こえてこない。 C美はなんだか急に意固地な気分になってきた。 この夏は人生のなかで二度と巡ってこないのに、特別な思い出を一つも作れないつまらなさが、胸いっぱいに込み上げてくる。
「うわぁぁぁん!」
アタシって、バカ? という心の声を聞きながら、C美は大きく泣き声を上げた。
「ど、どした!?」
おろおろした様子で戻ってきたカレに、C美は泣きながら言った。
「C美、もう一歩も歩けないもん!!」
カレは小さく一つ息をつくと、「ヘイヘイ」と言ってC美に背中を差し出した。

3. どうしてなんだろう?
Long long a go. ハワイから飛行機を乗り継ぎ、離島のリゾートホテルにやってきたS絵とT。 二人は昨日オアフの教会で挙式を済ませ、この美しい島で今日から1週間、誰にも邪魔されずに愛を確かめ合うのだ。
「きれいな夕日だねェ」
「ほんとだなぁ」
オーシャンビューの部屋からは、燃えるようなオレンジ色の太陽が、目の前に大きく広がる太平洋に沈もうとしている。
世界の中心で愛を……勝手に叫んで。小さい声でネ。

「見てるだけで、なんにもいらないね」
「オレはS絵がいなくちゃダメだけどネ」
「私だって、Tがいなかったら生きていけない!」
この日が来るまで、何もなかったわけじゃない。 別れ話と仲直りを繰り返し、ようやく結ばれた二人なのだ。

「口で言うと嘘っぽいけど、たぶんこうなる運命だったんだよね、私達」
「今、オレもそう思ってた」
ディナーのロブスターを食べながら、二人は運命について語り合った。

「愛が冷めるって、どういうことなんだろう?」
「う〜ん、オレにはわからんなぁ」
「Tのこと嫌いになる日なんて、私には一生ナイと思う」
「オレだって、婆ちゃんのS絵のこと、こうやって抱きしめるよ」
スイートルームのキングサイズのベッドで愛し合いながら、二人はずっと話し合っていた。
「どうして人は離婚なんてするんだろう?」
「さぁ。たぶん運命の人じゃなかったんじゃない?」

*    *    *

「ちょっとぉ〜。やめてよ、ただでさえ暑いのに、ますます蒸し暑くなっちゃうじゃないのさ!」
パソコンのディスプレイを覗き込み、Y子が私にクレームをつけてきた。
イヤイヤそういうY子だって、昔はあんなこと、こんなこと……こっぱずかしくなるようなバカップル経験があるではないか(笑)
あ、言わない言わない! ここでは絶対喋らないから、その握ったこぶしを開いてよ〜。
太陽に顔をしかめて散歩道をゆくあなたにも、きっとこんなバカップル時代があったに違いない。ホラ、胸に手を当てて、よ〜く思い出してみて!

ちなみに今回お話しした3組のバカップルは、その後それぞれに発展的解消をとげ、今ではみんなバラバラに、逞しく人生を生きている。
夏がくれる思い出は、誰にとってもこっぱずかしく、キラキラとバカっぽい。
バカップルじゃなかった2人。 相手、間違えてますよ〜(笑)

SHARE PAGE 友達にシェアする

BACKNUMBER バックナンバー

TOP