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連載記事 午後の散歩道
山田りかのハートフルエッセイ

プロフィール:某酒類メーカーに勤務するかたわら、ママ達の日々の暮らしを見つめる勤労作家。年齢不詳。いくつになっても、竜也の前では乙女です。

No.11

酔っぱらい列伝

『午後の散歩道』に、ようこそ!
街を歩けば聞こえてくる、賑やかなクリスマスソング。 先生もバタバタ走っちゃう12月は、何かと気が急く季節である。 年内にやらなきゃならない事は山とあるのに、その上 飲み会の約束まで〜(>_<) まぁまぁ、そこのお母さん。 全速力でこの散歩道を走り抜けずに、荷物を置いて ほんのしばらく、ここで休んでいきませんか? お酒なら、一通り揃ってますよ。 私、飲めないんですけど、酒と酔っぱらいには 多少の縁があるもので。 今回の散歩道は、私が今まで見聞きしてきた、酔っぱらいがしでかす数々の伝説をひも解いていこうと思う。 仕事の後の1杯は至福の幸せ。あ、私はアルコールフリーね!

「けもの道のレシピ」の回で少し触れた通り、私は酒が飲めない下戸女である。 それなのに、勤めている会社は酒類メーカーで、当然のことながら、そこには酒好きの酒豪がたくさん生息しているのだ。 彼らは私が飲めないと知ると一様に驚き、「なぁんだ、すっごく飲めるのかと思った〜」と落胆する。 そしてそれ以降、酒の場で会うたびに、強い者が弱い者をいたわるような目で 私を見るようになるのである。

以前、社内でアルコール・アレルギーの調査というのがあった。
調査内容はシンプルで、脱脂綿に浸した検査用アルコールを、人の腕にこすりつけて反応が出るか否か、というもの。
総務担当のHさんは、社員一人一人の腕に脱脂綿をこすりつけて回っていたのだが、私の腕をこすり、赤く反応した箇所を見て ひどく喜んでくれた。
「わー、この検査キット、偽物じゃなかったんだ〜」
「え? それどういう意味?」
「だってさ、誰にやっても何の反応もなかったんだもん」
Hさんは、私の腕の赤味を見て、このキットが正しく働いたことを初めて実感したのだという。 それぐらい、私の職場には酒呑みがあふれているのだ。

酒豪が揃う酒類メーカー。老若男女、問いません。

社内の雰囲気を明るく華やかにしてくれる若手女子達も、その例に漏れない。

可愛くて礼儀正しく、仕事も前向きにガンガンやっていく若手女子は、課外活動の合コンでも、他企業の男性諸氏に なかなかの人気だという。
ところが乾杯と自己紹介を済ませ、宴席が盛り上がっていくにつれ、男性諸氏のテンションがジリジリと下降してゆくのを感じるそうだ。
彼女らは、合コンが始まる頃は 可愛い女子として歓迎されるのに、酒を飲みだすと楽しくなり、相手のペースを忘れてグイグイとピッチを上げてしまうらしい。 飲み干したグラスを頭の上に載せ、「イェーイ、もう一杯♪」と声を上げた時、引き潮の向こうで、男性陣の冷めた目が見えた、と ある女子が私に語ってくれた。

そんな若手時代に同類の酒呑みを無事に捕まえ、結婚・出産・子育てを済ませた大人の先輩女子も、酒を美味しく飲むための流儀を持っている。
前述の総務担当Hさんは、飲みの予定が入っている日は3時過ぎからお茶もコーヒーも口にしない。 日頃、動脈硬化や血圧などを気にしている人なので、もっと水分を摂ったら?と 私がお節介を焼くと、
「だって最初のビールを美味しく飲みたいんだもん!」
普段 物腰の柔らかなHさんの、最初の一杯に懸ける その決然とした態度に、私は酒呑みの生き様を見た気がしたものだ。

いつも優しいHさんが、飲みの日の午後はキゼンと…。

さて、ここからは酒呑み達の本当の武勇伝。
それに先立ち お断りしておくが、この伝説の主達は、私が勤務する会社の社員に限らない。 ここに記すのは、私が過ごしてきた長い人生のなかで目撃した、または聞いた、愛しくもおバカな酔っぱらい達の物語である。

笑顔が印象的なI氏は、仕事が出来て弁舌さわやか。凹んだ人も彼と話せば前向きな気持ちになれる魅力を持った好男子である。 しかしこの人は酒が進むと予想外な行動に出て、周囲の人を驚かす事で有名だった。 奥さんはミス○○に選ばれた美しい人なのだが、I氏の酒癖にいつも手を焼いていた。

ある晩、深酒をしたI氏は、このまま帰宅したら また細君に叱られると思ったのか、多摩川の橋桁付近でタクシーを止めた。
「こんなところで降りたら、歩いて帰れませんよ!」
同僚に止められてもI氏は聞かず、酔った足取りで多摩川の河川敷に踏み入っていく。 しかたなくタクシーを降りてついてきた同僚に、
「オレ酔ってる? オレ酔ってるよなぁ」 としつこく問いかける。
溜め息をつきながら「ああ、酔ってるさ」とうなづく同僚を見た途端、背広の胸ポケットから小銭入れを引っぱり出し、

こんなところで…! ったく、酔っぱらいは〜

「○子ォォ〜ッ! オレはお前を愛してる。愛してるんだよぉぉ〜!!」
細君の名を叫びながら、百円玉や五円玉を多摩川に投げ込んだということだ。

I氏にまつわる伝説は他にも数々あるが、私が聞いたなかで一番の話は、I氏不死身のダイブ事件だ。
それは彼がまだ大学生の頃。 卒業旅行で世界を旅したI氏は、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロのバーで酒を浴びるほど飲み、千鳥足でホテルの部屋へ帰りついた。 彼が宿泊する部屋はそのホテルの11階だ。
酔っ払ったI氏は部屋に入ると服を脱ぎ、ベッドに倒れてすぐに熟睡した。 するとしばらくして、廊下をバタバタと人の走る音がする。
なんだろうと頭の片隅で思いながらも眠りこけていると、部屋のドアをドンドンと激しく叩く音がする。
異変に気づいたI氏は、暗闇のなかで耳を澄ました。そしてドアを叩く人が
「 Fire! Wake up !! 」と叫んでいるのだと理解した直後、Tシャツにトランクス姿のまま、窓から外に飛び降りたのである。

火災により多大な被害が出たなかで、11階から飛び降りたジャポンの青年はかすり傷だった。 翌日、I氏は地元の新聞に掲載された。
当時の事を聞かせてくれたI氏によると、11階より下の階には古びたテラスの屋根のようなものがあり、その屋根を突き破ったおかげで、落下の衝撃が弱まり、軽傷で済んだのだという。
「いや〜、たぶん酔ってて体がグニャグニャしてたんじゃないかなぁ」
I氏はそんなふうに解説し、懐かしそうに目を細めたのだが……これは本当に幸運だった奇跡の話。 良い子とその親は、絶対にマネをしないように!

I氏と違って、酔って痛い目に遭ったのは通信機器メーカー勤務の素敵女子 Yっちだ。 金曜日の仕事終わり、いつもよりお洒落をしたYっちは、
「今夜は飲み会なんだぁ〜」
ロングヘアーをサラリとかき上げ、嬉しそうに夜の街へと消えていった。
そして翌週の月曜の朝、職場に登場したYっちの様子がどうもおかしい。
「どうしたの? なんか歩き方がヘンだよ」 と声をかけると
「それがさぁ〜。 自転車のサドルで、ココを〜」

普段 自宅から最寄の駅まで自転車で通勤しているYっちは、飲みの予定が入っている日はバスを利用することに決めているそうだ。 ところが金曜の朝に、うっかり自転車を乗ってきてしまったらしい。
「まぁ、そんなに酔ってないから大丈夫だな、って思ったんだけどさ〜」
酔っぱらったまま自転車を漕ぎだしたYっちは、鼻歌まじりに道路の側溝に突っ込み、サドルで自分の大事な股周辺を強打したというのだ。

飲酒運転は禁止ですよ。

「その時は、ぜーんぜん痛くなかったんだよ。 でも明け方に、ありえない痛さで目が覚めたのよ〜」

ロングボブにつぶらな瞳が可愛いYっちの、字で表すとまさに「Y」の中心部には、それから数日の間、どす黒いアザが消えなかったという。
(※ 現在の交通法規では、自転車の飲酒運転は罰則の対象となっています。 絶対にやめましょう)

自転車ではなく、酔って車の上に乗っちゃったのは男前な女T。
Tは正義感が強く負けず嫌いの男勝り。ゴルフをしても女性のために用意されたティーグラウンドは死んでも使いたくないと練習に励み、男性と同じレギュラーのグラウンドで打つような女子である。
このTがある晩酔った勢いで、駐車中の車にスーツ姿で上りだした。

「おい、やめろ!」と制止する同僚男子の腕を振り払い、車の屋根にスックと仁王立ちしたTは、
「お前達! なんか文句あるのか〜!」と同僚達を指差して叫んだという。
誰かに通報されたら警察にしょっ引かれる!と思った男子が、Tを力づくで車の屋根から引きずり下ろしたということだが、私はその時のTの、酔っぱらった頭の底にうずまくジェンダーなストレスに思いを馳せてしまった。

Tは常日頃、社会生活における男女格差と戦っているのだ。 その思いが酒の力で爆発し、そんな行動に出たのに違いない。
Tはその後勤めていた会社を辞め、今はペットフードのメーカーで男前な活躍をしている。

年の瀬にお贈りする酔っ払い列伝、最後の猛者は、仕事仲間まーくんのお父さん。 まーくんは爽やかさと腹黒さをあわせ持つ 将来有望な青年なのだが、一緒に飲んだ時に話してくれた彼のお父さんのエピソードがとても面白かったのだ。

まーくんが生まれ育ったのは東京近郊の工業団地。 お父さんは建築関係の仕事に就いていて、一日の仕事が終わると必ずどこかで酒を飲み、ご機嫌な様子で帰宅するのだという。

日本の発展のために頑張った、まーくんの父さん。

団地が寝静まった夜、遠くから歌声が聞こえてくる。
「夜霧よ〜、今夜も〜 ありぃがーとう〜♪」
あ、オヤジが帰ってきた。兄ちゃんと並んだ蒲団の中で やだなぁ、と思いながら耳を澄ましていると、母さんが困った声で
「あんた達、ご近所迷惑だから 早く父さんを連れ戻して」と言う。
まーくんと兄ちゃんは蒲団からむっくりと置き上がり、
「んもぉ〜、しょうがねーなぁ!」と文句を言いながら上着をつっかけ、
道の向こうから裕次郎の歌を独唱する父さんを回収するのが 兄弟の夜の務めだったという。

そんなご機嫌な父さんが病に倒れたのは息子二人が成人してから。
闘病の末、まーくんの父さんは家族三人を残し、亡くなってしまった。
その頃 兄ちゃんは銀行に就職し、まーくんも一流大学に通う大学生になっていた。

葬儀の後しばらくしてから、兄ちゃんとまーくんは、父さんが元気な頃に通っていた居酒屋へ、生前お世話になったお礼かたがた飲みに行った。
父が亡くなったことを話すと、大将は「そうだったのか」と父さんの死をひとしきり嘆いてくれた。
「あんたらの父ちゃんはなぁ、家族のために一生懸命働いてよ。ホントに、あんな酒呑みは他にいねぇよ!」

う、ヤバイ。 なんかいい話されたら泣いちゃう。 兄の前では決して泣きたくないまーくんは、目に力を入れて大将の言葉に身構えた。
「あんたらの父ちゃんは、客が飲んでるこのカウンターの上で……」

「ハダカ踊りをしたんだよ! オレぁ、あんな酒呑み、見たことねぇ」
兄ちゃんとまーくんは兄弟揃って身を縮め、生前の父の所業を平に詫びて帰ったということだ。

こんな所でハダカ踊りを!? 恐るべし酔っぱらい。

以上、酒呑み達による、おバカで愛しい酔っぱらい列伝、楽しんでいただけただろうか。 これから年末にかけては、日本全国宴会シーズン。今宵もどこかの街角で、酔っ払い達が伝説を作り出してくれるに違いない。

そういえば先日、高校のクラス会で呑兵衛の旧友YNと会ったっけ。
彼女はもともとシャイな性格で、三人の子どもを育て上げた立派な母なのだが、酒が入ると人格が変わる。

その晩も足元がふらつくほど痛飲し、「ちょっとアンタ、大丈夫!?」と周りが気遣うのを、「らいじょーぶ!アタシこー見えて案外らいじょぶなの!!」
と振りきって自宅のある久里浜へと帰っていった。
そして1時間ほどたった頃、彼女からこんなメールが入ったのだった。

「起こされて三崎口(笑)」

酒呑みの皆さん、お酒はあくまで適量に!

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