HOME 連載と特集 連載記事 午後の散歩道 フィンランド紀行(4)  〜キートス スオミ!そしてオーロラ編〜
連載記事 午後の散歩道
山田りかのハートフルエッセイ

プロフィール:某酒類メーカーに勤務するかたわら、ママ達の日々の暮らしを見つめる勤労作家。年齢不詳。いくつになっても、竜也の前では乙女です。

No.05

フィンランド紀行(4)  〜キートス スオミ!そしてオーロラ編〜

『午後の散歩道』に、ようこそ!
9月になりましたねぇ。
夏の訪れと共に始まったこのフィンランド紀行も、もう4話目。
ねぇ、いったい いつ終わるの?
それはその、秋になる前に…。 じゃあ今でしょ。 ソレ急げ〜!

サーリセルカの雪の道と スキー場の標識。

2月5日。Cちゃんと共に、ラップランドの小さなスキーリゾート
サーリセルカにやってきた。
ここは知る人ぞ知る、オーロラハンティングのメッカ。
しかしそれより前に、ヨーロッパの人々にとっては、
スキー、それもノルディックスキー(クロスカントリーなど)を
楽しむ町として、古くから親しまれている土地だ。

私達が滞在したホテル、リエコンリンナの裏庭も
クロスカントリーのコースへと続いており、
幅の狭いスキー板を履いたヨーロッパ人のスキーヤーが、
ザッザッと音をたてながら、客室の窓の外を横切っていく。
リエコンリンナの室内。雷鳥柄のカーテンが可愛い☆

ホテルに到着した夜、ここに拠点を置く日系ツアー会社の現地スタッフが、
宿泊客を集めて、ブリーフィング(説明会)を行なった。
町内会の役員みたいな風貌のスタッフ・Oさんは、
年に数か月のシフトで当地に滞在する、北欧ツアーのベテランガイドだ。

Oさんによれば、この小さな町には病院も消防署も警察署もない。
怪我や病気をすればドクターヘリを呼ばなくてはならず、
ホテル室内で非常ベルが押されても、消防車が着くのは30分後。
そしてOさんが知る限り、このホテルで盗難の被害に遭った人は
1人もいないという。 ベテランガイドが太鼓判を押すほど、
サーリセルカという町は治安が良いらしい。
「素朴で平和な町ですから、怪我にだけ気をつけて、
あとは安心して旅を楽しんで下さい」とのことだった。

「あのォ、それでオーロラは……」
宿泊客の1人(私)が、おずおずと尋ねると、
「それは皆さんの運次第! あまりナーバスにならずに、
 出てくれるのを気楽に待つことが大事です」と強い口調で言われた。

ツアーオフィスの掲示板には「オーロラ心得」が!

「そうだよね、ヤキモキしたってしょうがないよ」
「大丈夫、だって私達、晴れ女だもの!」
汁粉色のどんより曇った夜空を見上げながら、私とCちゃんは
決してクヨクヨするまいと、心に誓う。
部屋に戻ってテレビをつけると、ソチ五輪の開会式をやっていた。

夜はオーロラを見る、または出てくれるのを待つとして、
あんた達、いったい昼間は何してたの? と思う方がいるかもしれない。
そう。 私達とて 旅に出る前、昼間は「寝るっきゃないよね」と、
日頃の睡眠不足を ここで一気に解消するつもりでいた。
しかしオーロラの出現以前に、分厚い雲にすっぽり覆われた
この無情な空の下にいる今、昼間も思いきり楽しむっきゃない。
私達の興味は、スノーアクティビティに向かった。

ガイドのOさんによると、ホテルの裏には橇(そり)のコースがあり、
これがなかなか、「地味だけど面白い」という。
私達は、ツアー会社からレンタルしたお揃いのスノーウエアを着込み、
Oさんに教えられた通り、ホテルのフロントで「スレー、プリーズ」と
頼んで、プラスチック製の おもちゃみたいなソリを借りた。
スレーは「ボブスレー」のスレー♪

アルペンスキー場の脇の斜面にある この橇コースは、全長1キロ。
スタート地点まで、斜面を20分上らなければばならない。

「えぇー。 ここ、上るのォ? アタシ 無理かも〜!」
スノーウエアの下にダイナマイトバディを隠したCちゃんが
弱音を吐くのを「平気、いつの間にか着くよ!」と励ましながら、
コース脇の斜面を一歩一歩 上りはじめる。
すると数分に一組の間隔で、スレーにまたがったヨーロッパ人の家族が、
顔を真っ赤にして、笑いながら猛スピードで降りてくる。
彼らに手を振ると、こちらまで愉快な気分になってきた。

コースの両脇は、樹氷になった灌木(人間の背丈ほどの低木)の森。
その森を眺めながら上るうち、樹氷の根をほじる黒い塊を発見した。
「ん? アレは何??」
「うわぁ! あんな所にロバが!!」
……って。 北極圏に野生のロバがいるワケないでしょ。
目印の 立派な角がないために、つい見誤ってしまったが、
あれこそ私達が初日の晩に美味しく頂いた野生のトナカイ!
前回のエッセイで、思わせぶりに出したクイズの正解が、コレなのだ。
正解はもちろん…トナカイさん☆

後で聞いた話では、実はトナカイはすべて放牧された家畜で、
野生のものは1頭もいないという。彼らは灌木の茂る森の中に放たれ、
栄養分の高い木の根を食べながら、長い冬を自由に過ごす。
サンタが住んでた昔から、彼らはこの地で人間と共に生きているのである。

20分で着くといわれた斜面を小1時間かけ、
私達はようやく橇コースのスタート地点に到着した。
まずは山頂のレストランに入り、トナカイのスープ(キャァ!)で
冷えた身体を温めて。 さぁ、ここから一気に降りるわよォ。
スポーツが苦手なCちゃんと違い、子どもの頃から体育だけは5だった私。
にわかにスピードの鬼になった私は、エイヤとスレーにまたがり、
ソチ五輪のリュージュの選手をイメージして、身体をまっすぐに倒した。
そりコースのスタート地点。ここから一気にふもとまで!

ふもとの雪溜まりに、頭からバフッと突っ込んだのはそれから5分後。
先にゴールしたのは、ズルズルと慎重にスレーを操ったCちゃんだった。
あっちの斜面、こっちの溝に身体ごと突っ込みながら
コースアウトを繰り返した私に、Cちゃんは笑いながら手を差し伸べる。
「りかちゃん、いっぱい転んじゃったねぇ!」
「まぁね。 でもすんごく楽しかった……ハハハ」
ホテルに続く雪道を歩きながら、私は5分間の橇滑りに、
なんとなく自分の浅はかな人生を重ねていた。

翌日、私達はホテルからバスに乗り、別の森へと向かった。
前々回のエッセイで、チラリとお見せした「犬ぞり」をするために♪
犬好きの私達にとって、それはオーロラに勝るとも劣らない
旅の一大イベントである。

参加したのは「犬ぞり体験サファリ」。
「体験」とつくと、ワンコに引かれて こっちから向こうへ行くだけの
ほんのお遊びのツアーだろう、と思われそうだが、違うのだ。
ツアー客自身が橇を操り、5頭のハスキー犬に引かれて、広い森の中を
40分間疾走する、ダイナミックなアクティビティなのである。
出走前の犬たち。走る気満々だ。

スタート前に、イケメンのフィンランド人インストラクターから、
犬ぞり操作の簡単なレクチャーを受け、森の道へと降りていく。

橇は2人乗りで、1人は荷台の椅子に足を伸ばして座り、
後ろに立ったもう1人が、ブレーキやカーブなどの操縦をする。
1台に5頭ずつ繋がれた犬たちは、身体の小さい順に100頭ばかり。
彼らはすでに走る気満々で、遠吠えしながら待機している。
ひと目見ただけで「とろい」と判断された私達は、小柄な犬が繋がれた
前から2台目の橇を与えられた。後ろのデカイ犬たちは、デカイ白人の
カップルが乗る橇を引っ張り、走るようだ。 うーむ、納得。

出走前の犬は興奮しているため、触れない。
「キミ達、どうぞ よろしくね!」と声だけかけて、位置についた。
イケメンインストラクターが先頭でスノーモービルにまたがると、
犬たちの雄叫びは最高潮。 犬ぞりサファリのスタートだ。
C・山田組の犬たち。ちっちゃくてもパワフル!

ワンワン!と元気に吠えながら、森の木々を縫うように犬たちは走る。
「キャー、早い〜」と悲鳴を上げるCちゃんを荷台に乗せ、
橇を操縦する私のなかで、またムラムラとスピード狂の血が騒ぎだした。
「ホップ(行け)!ホップ!!」と犬たちに掛け声をかけ、
前の橇を追い越さんばかりに疾走する私の橇。
おお、快感……!そう思った瞬間、インコースで操縦を誤った。
悲鳴を上げる間もなく、座った形のまま雪の壁に激突するCちゃん。
私はCちゃんの大事な命を奪ってしまったかもしれない、と青くなった。
「だ、大丈夫!?」
エジプトの壁画のように、雪の壁に横向きに めり込んだCちゃんが、
「…うん。ビックリしたけど、大丈夫〜」
その姿勢のまま、無事生存の合図を送ってきた。
ああ良かった。強い子に育ってくれて、Cちゃんよ ありがとう!
ホッと胸を撫で下す私の周りで、止められた犬たちは
「早く行こうぜ」と不満の声を上げる。
私が起こした衝突事故により、後続の橇が渋滞している。
1台後ろの橇の男性が、めり込んだCちゃんを助け起こした途端、
「待ってェ〜!」
犬たちはカラの橇を引いて森の中を走り去った。

私達を森の道に置いてきぼりにした脱走犬たちは、
イケメンインストラクターにより、数10メートル先で捕獲された。
後半の道のりは、Cちゃんの安全走行により 大事なく戻ることができた。
お勤めを終えた犬たちは、爆走モードから愛犬モードに一変し、
私達に「ク〜ン」と甘えた声を上げる。
どん臭い私達(主に私)を一生懸命引っ張って 走ってくれた犬たちを
「ありがとねェ、大好きだよ〜!」と感謝しながら一頭一頭抱きしめた。

犬ぞりサファリの後、ログハウスでひと休みしていると、
先程(さんざん)お世話になったイケメン インストラクターが、
ハスキー犬の子犬を抱いて戻ってきた。

子犬の登場に歓声が上がる。

愛くるしいワンコを交代で抱っこして、記念写真をパシャパシャ撮り、
犬ぞり体験サファリはお開きとなった。
「ホントーに! 来て良かったねェ」
帰りのバスのなかで、Cちゃんと私はしみじみ思った。
たとえオーロラが見られなくても、この旅に悔いはナシ!と。

ホテル リエコンリンナの最終日は、スノーシュー(かんじき)を履いて
隣接する ウルホケッコネン国立公園の広大な森を散策するツアーに
参加した。
静寂に包まれた、雄大な国立公園。

何の音もしない、白銀の森。こんな場所を歩くなんて、なんか怖い!
そう思われるもしれないが、可愛くて逞しいインストラクターのエヴァに、
森の植物や生き物のレクチャーを受けながら歩くツアーは楽しかった。
インストラクター・エヴァと雪の上に大の字♪

エヴァと2人で、ふわふわの新雪に ジンジャークッキーの形で倒れると、
頭のなかが空っぽになって、ただただ「アハハハ!」と 笑いたくなった。

さて。
素朴なスノーアクティビティを満喫したCちゃんと私は、
オーロラ鑑賞に最後の望みを託し、サーリセルカの奥地にあるホテル
カクシラ ウッタネンに移動した。
ここはガラスイグルー( ガラス張りのかまくら )で有名なホテル。
ここでオーロラを見るのが夢だった…。

冷気でガラスが曇らないように、特殊な加工が施されたドーム型の客室。
2ベッドにトイレ・簡易洗面所だけの、ガラス張りキャンプみたいな所だ。
室内はこんな感じ。
夜空を見るためだけにある部屋。

このガラス張りの客室で ベッドに寝たまま、晴れた夜には降るような星と
オーロラが見られる!と、ネットの広告に書いてあった通りの部屋である。
……晴れればねェ。

夕方には少しだけ雲が切れたものの、日暮れ過ぎから雪が降り出し、
私達は結局ひと晩中、ガラス一面に降りかかる雪を恨めしく見上げながら
最終日の朝を迎えた。

「私達の晴れ女パワーは、国内限定だったのね……」
過去の人生で、思い通りにならなかった数々の出来事が 頭をよぎる。
2人で溜め息をつきながら荷物をまとめ、サーリセルカに別れを告げた。

その後、私達はイヴァロ空港から国内線でヘルシンキに行き、
空港に荷物を預け、街で最後の買い物をした。
スマホのニュースによれば、2月9日の日本は 記録的な大雪だったとか。
対照的に、ここヘルシンキは暖冬による 雪解けが進んでいた。
日曜日の街頭には大道芸人も出て 賑やかなものだった。
ヘルシンキのシブイ大道芸人。おひねり3ユーロ!

寝不足の目をこすりながら、エコバッグいっぱいに お土産を買いこんで、
私達はヘルシンキ・ヴァンダー空港へ舞い戻った。
旅の友 Cちゃんとは空港の隣りのゲートでお別れだ。
思い返せば、今回の旅で 私はどれだけCちゃんに助けられたことか。
彼女は私より5分早い便で日本へ向かい、地方都市の文化事業運営のため
力を尽くして働く毎日に戻るのだ。 そして私もまた、いつもの日常に。

オーロラはついに見ることが叶わなかったけれど、
私は素朴で優しい森と湖の国 フィンランドが大好きになった。
キートス(ありがとう)スオミ! キートス、Cちゃん!

ん?見ることが叶わなかった?
イヤイヤ。転んでもタダでは起きないのが「午後の散歩道」。
皆さんにホロ苦い思いだけさせて、終わるハズがないでしょう〜!

夕刻にヘルシンキを発ったフィンエアー成田行き73便。
リエコンリンナの日本人ガイドOさんに教えられた通り、シベリア上空で
「もし出たら見られる」という北側窓際のオーロラシートに座り、
私は機内食もそこそこに、じーっと夜空を眺め続けた。

すると、真北に輝く北斗七星の下あたりに、白い雲のような線が一本、
水平にすーっと出現。 その雲のような線が徐々に輝きを増し、
長さも視界いっぱいに伸びたところで、地上に向けて
幕のように広がった瞬間、白い線が薄い黄緑色に変化し、
風にそよぐカーテンのように、ゆらゆらと揺れはじめた。
Cちゃん撮影・機上のオーロラ。山のように見えるのは飛行機の翼。

最初は誰も気づかず、私だけがダウンジャケットを頭からかぶり、
窓に張りついて観察していたのだが、ゆらゆらの時は乗客全員から
「わぁぁ!」「So wonderful !」と歓声が上がった。

オーロラは、ただカーテンが揺れるだけじゃなく、分厚い光の
緞帳(どんちょう)のようなものから、レースみたいに可憐なもの、
布地をぐるっと巻き込む形や、中空をまるでギリシャ神殿の円柱のように
上っていくものなど、星空いっぱいに、踊るように遊ぶように、
変幻自在に広がっては拡散し、また別の形へと変容する。
色は白から薄い黄緑、青、そして裾のゆらゆらがMAXの時は、
縁の部分がオレンジ色に変化した。
幻想的などと言う言葉とはほど遠い、圧倒的な光のパワーだ。

地上から見るオーロラは普通20分ぐらいで消えるらしいが、
上空1万メートルから見たこれは 現れてから消えるまで丸々2時間!
腰と肩、左のお尻の痛みも忘れ、私は夜空のオーロラショーを楽しんだ。

フィンランドでは ついに1度も見ることができなかったオーロラ。
最後の最後に、天は我々を祝福してくれたのだった。
前日の大雪から一転の成田上空。晴れ女、復活。

成田に到着すると、5分違いの便で発ったCちゃんから電話が入った。
「見た?」

「見た見た! 凄かったねェ!!」
空港でカメラをスーツケースに入れ、預けてしまった間抜けな私と違い、
Cちゃんは手持ちのコンパクトカメラで ( ピンボケながら ) しっかり
写真も撮っていた。
手に手を取って喜びを分かち合えなかったのは残念だけど、
違う飛行機から同じオーロラを鑑賞できて、本当に良かった!

真冬のフィンランド紀行はこれで終わりだ。
いかがでしたか? 
暑い夏に、少しは涼しさをお届けできただろうか?

フィンランド旅行で散財した私は、当分の間、日本国内に潜伏する。
次回の散歩道は、チープで楽しいインドアライフを紹介しようと思う♪
本当に金髪の人は、眉毛もまつげも金色でした!

SHARE PAGE 友達にシェアする

BACKNUMBER バックナンバー

HOME 連載と特集 連載記事 午後の散歩道 フィンランド紀行(4)  〜キートス スオミ!そしてオーロラ編〜
TOP