60北国の王子様

生まれて初めて異性と両想いになったのは、

高校一年の夏だった。


部活の後、

校舎の昇降口で待ち合わせ、

二人並んで校門を出る。

女友達に 「バイバーイ」と手を振り、

少しだけ人気 (ひとけ) のない道を選んで帰る時の、

ささやかな優越感…。


「あたしは中学の二年だったなぁ。

色が白くてシュッとした、

王子様みたいな片山クン」


ユウトのママ・リツコは

ダイニングテーブルに頬杖をつき、

遠い目をした。

私は リツコが色白の王子様と

並んで歩く姿を想像し、

飲みかけの紅茶を吹き出しそうになった。


「それにしても、あの子達は

ちょっと早過ぎるんじゃない?」


リツコは恋する乙女から母の顔になり、

ソファの隅で丸まっている

二人の子どもに目をやった。

さっきまで転げ回って

くすぐりっこをしていたユウトとサヤは、

今は向かい合って

おでことおでこをくっつけている。


「三才で両想いって。 ……どうなんだろう」


ユウトは小さな両手で

娘のサヤのほっぺを包み、

「○○だからね?」と、

何事かを一生懸命、言い聞かせている。


「ユウトはどこで

あんなこと覚えたの?」

「誰にも教わってないよ。

生まれつきかなぁ」


私とリツコは

ラブラブな二人を眺めながら、

彼らが残したクッキーをつまんだ。


「オイ、ちょっとそれ 大丈夫なのか !? 」

遅くに帰宅した夫は、

昼間の話を聞かせた途端、

機嫌が悪くなる。


「大丈夫って、何が?」

「何がってお前…。

いくら子どもだからって」

「ユウト君ってさ、なんか生まれつき

女の子の扱いを知ってるみたいなんだよねェ」


夫はあんぐりと口を開け、

お茶漬けの茶碗を持ったまま、

硬直してしまった。


翌日の午後、昨夜の夫の

過剰な反応について語ろうとした私を、

リツコが遮った。


「来月、あっちに引っ越すことになったんだ」


あっちというのは、リツコ達家族が

三年前まで住んでいた 盛岡の町のことだ。

震災の時、

津波で家を流されたリツコは、

乳飲み子だったユウトを連れて ここに来た。

妻子と離れて

現地に留まっていた旦那さんが、

隣町に新しい家を 建てたのだという。


「家族一緒に暮らすのが、

一番だものねぇ」


正直、気の合うママ友と別れるのは 辛い。

でもリツコがどんな思いで

この三年を過ごしてきたのかと思うと、

行かないで とは言えなかった。


「あたし達親子が

ここで楽しくやってこれたのは、

全部 サヤとミッチのおかげだと思うんだ」


リツコは声を震わせながら、

ありがとね、と言った。


リビングでお絵かきをしていた

サヤとユウトは、

抱き合って号泣する母親二人を、

不思議そうな顔で見上げていた。


「サヤ! ユウト君から

ビデオレターが届いたよ」


リツコ親子が盛岡へ行ってから

3か月が経っていた。


この春、地元の幼稚園に入園した

ユウトのビデオが送られてきた。

やっと落ち着いてきたんだな、

と思うと、私もなんだか嬉しかった。

娘のサヤも、今はすっかり

こちらの幼稚園に馴染んでいる。


「サヤちゃん、元気ですか?」

黄色い帽子に

青いスモックを着たユウトが、

たどたどしい口調で、

サヤに話しかけている。


生まれつき

女の子の扱いを心得ているユウトは、

きっともう

新しいガールフレンドを

作っているに違いない。

そうなるとサヤがちょっと不憫……。

と思っていると、

画面のユウトが

こちらのサヤをみつめ、囁いた。


「サヤちゃん。

ボク、ずっとサヤちゃんの王子様だからね?」




※ショート・ショート ストーリーは、今回をもって

 しばらくの間、お休みいたします。

 長い間のご愛読 ありがとうございました。

 次回からは、 山田りかのショートエッセイ

 『午後の散歩道』をお届けいたします!

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